【役員インタビュー COO 佐々木駿】デジタルネイティブ世代をターゲットにしたマーケティングの考え方

コロナ禍を機に、私たちの日常生活やビジネスの風景が大きく変わりました。

リアルな接触だけに頼る時代は終わりを告げ、デジタル上でのアプローチの重要性が急速に高まっています。

その中でも、企業は時代の最先端をいくデジタルネイティブ世代とのコミュニケーションが重要視されています。

 

今回は、デジタルネイティブ世代とのコミュニケーションを得意とするCOO 佐々木駿に、この世代との効果的なコミュニケーションの手法についてインタビューしました。

前半では、佐々木のこれまでのキャリアとデジタルネイティブ世代の特徴を理解するために認識しておくべき前提条件について発信しております。

 

COO佐々木が灯白社にジョインした背景

ーー佐々木さんの経歴について教えてください。

電通に新卒で入社し、マーケティング部署でデータとインサイトを起点とした事業戦略やコミュニケーション戦略立案に携わっていました。

その後、電通デジタルの設立と同時に出向し、DX部門で事業戦略策定、デジタルネイティブ世代に向けた新規事業開発、サービス開発・統合コミュニケーションの部署を兼任していました。

電通退職後は、クリエイターを起用したD2C事業やプロモーション事業を展開する灯白社にジョインし、現在は営業やマーケティング領域の統括をしています。

 

ーー灯白社にジョインした理由を教えてください。

かねてより、アニメや漫画、イラストなどのコンテンツ・クリエイター領域が好きで時間やお金を使っていました。そういった自身の関心領域の先で、事業を通じてこの領域を盛り上げる一助になれる点が大きなポイントでした。

一例として、灯白社ではクリエイター様の創作物で収益を上げた際に、制作費の払い切り型だけでなく、販売金額に応じてロイヤルティを払い出す仕組みを採用しています。

日本が誇れる創作カルチャー領域を盛り上げながら、自分自身もアウトプットに関わり、クリエイター様が稼ぎ・素晴らしい創作物を作り続けられる新しいビジネスを構築していく。広告代理店としての経験と事業会社としての経験、このハイブリッドだからこそチャレンジできる領域があると考えたためです。


ーー灯白社で担当されている業務について詳しく教えていただけますか。

主に、企業やサービスのプロモーションやブランディング支援、既存版権(IP)とのコラボレーション案件の領域を中心に、対外折衝・マーケティングの役員として全体を見ています。

その他、取締役という立場でもあるため、経営サイドでは会社の成長モデルの検討や営業戦略・組織構築面を中心に、経営にまつわる諸問題について代表と協議・決定をする役割を担っています。

 

デジタルネイティブ世代を理解するための3つの前提知識

ーー佐々木さんは、電通時代からデジタルネイティブ世代をターゲットとしたマーケティング施策やコミュニケーション施策を数多く手がけているんですね。「Z世代」ではなく「デジタルネイティブ世代」と表現しているのはなぜでしょうか。

世代で切り取りたいという意図よりも「デジタルに慣れ親しんだ消費者の行動様式や価値観の変化、これからメインストリームになるであろう新たな潮流の兆し」を突破口にしてマーケティングのアップデートを行うことを主目的としているため、「デジタルネイティブ世代」と表現してます。

例えば、40代でも50代でもメルカリで物が売れる喜びを味わったり、定価で買うよりも新古品が安く手に入るようになったりすると、普段の消費や買い替えのタイミングで2次流通先の確認がマストになります。

このような兆しは若年層ほど先に見つかりやすいですが、若年層だけのものではないため「デジタルネイティブ世代」という表現を使うことで、マーケティングにどのように活かしていくかを考えようというイメージです。

ターゲットセグメント的な視点では「Z世代」や「ミレニアル世代」、さらにはZ世代よりも後に生まれた「α世代」のような表現が一般的ですが、今回は「デジタルネイティブ世代」と表現します。

 

ーー「デジタルネイティブ世代」の特徴を理解するために、どのような前提知識が必要なのでしょうか。

1つ目にデジタルネイティブ世代は「成功のレール/安全神話が消滅している」と気づいているということです。

ブラック企業やサービス残業への規制が強まったり、働き方改革と同時にハラスメントも強く取り締まられたり、これまで弱い立場だった側の主張が通りやすくなりました。

 

また、大企業に入ってもリストラ(早期退職)が行われる現実を横目に見つつ、YouTuberを皮切りに「好きなことで稼げる」ことを証明する人たちの登場が仕事の概念を拡大しています。

そのようなことが世の中の動きの断片だとすると、一昔前に語られていた「大学を出て、大手に努めて、ガッツリ働き、稼いで、結婚して、マイホームと車を買って…」という成功ルートが消滅していると気づきます。

デジタルネイティブ世代は、これまでの当たり前がひっくり返る瞬間や、アウトローや異端とされていた人たちが賞賛されること、影響力を持つ姿を何度も見ていると思うんです。

 

それならば、あらゆる物事も自分たちなりの合理的な判断軸で決めよう、Whyを意識して「根拠なき通説や慣習は無視しよう」という変化が起こってきたのではないかと考えています。

みんなが思い浮かべる安全神話がないからこそ「意味や意義が注視され、個の思想やスタンスが問われる側面が強まっている」と感じています。

 

2つ目は「突破力の高い情報の質と、情報ソースの権威性が変化しつつある」ことです。

検索エンジンやSNSで情報が増えて選択肢が膨れ上がる中で、失敗できない選択を迫られ続けると、正解へのショートカットが欲しくなります。

その傾向として、ユーザーは検索媒体と検索方法を用途別に使い分けています。

 

例えば、一般常識はググり、トレンドの店や施設はTikTokやInstagramのストーリーズ、ノウハウや解説系はYouTubeを使っていますよね。*¹

マーケティング視点で考えると、情報は用途に合わせて分散させなければいけない側面が強まっているという話につながります。

 

また、これまでは情報が多くある中で、ユーザーからすると特定のテーマについて精通していたり、熱狂的な人が集まる場所に情報を取りに行くことが最短ルートでした。

例えば、コスメの場合@cosme、飲食店の場合Retty、食べログを使うユーザーが多いと思います。

ただ、これらもスケールの拡大と共に総合解(大衆評価)に近づきつつあります。

そうなると、次は専門性の高い個人の方に焦点が向き始めました。*²

これらのトレンドから共通して言えることは、「バーティカル性(垂直性)=広さではなく、深さ」、「1次情報=キュレートではなく、実体験に基づく生の情報」が求められるようになってきており、そのような情報を発信する個人に権威性が移管されつつあります。 

 

 引用元:https://note.com/syun_shun/n/n62a7787279c5

 

3つ目は、デジタルネイティブ世代は「消費のドライバーが多角化している」ことです。

「お金を消費するタイミングを絞っているだけで、計画的に散財している」というイメージです。

 

最近「推し活」*³という言葉を耳にする機会が増えたと思いますが、推し活という消費行動は、財布のリミッターが外れる最強の要素と言っても過言ではないと考えています。

推し活をする際にアイドルや人物・キャラクターを指す言葉としてだけでなく「好きなモノ・コトへの熱中」が重要性を増しています。

これら「推し・好き」の存在は「消費=自己表現の手段」としての側面を強く表していると考えているんです。

好きなもの=時間やお金を投じているモノ=自分の個性の一部」といった意味を持っていると言えますね。*⁴

 

消費行動のトレンドとしては、計画的な散財の他に「世界観や思想への共感」や「応援消費、投げ銭」が挙げられます。

強烈な課題感から生まれたアイテムや、強い思想から生まれたブランドが数多く現れました。

それにより、買うことによって「ストーリーや思想をまとえる、語れる良さが明確にあるモノ」への注目が高まったように感じています。

 

また、応援消費・投げ銭のようなライバー市場やクラウドファンディング市場は、コロナ禍による巣ごもりがトリガーとなり、かなり一般化されました。

「消費=モノを買う」だけではない意味の拡張が起こっていると考えています。

繰り返しになりますが、お金を使わない訳ではなく、狙いを定めて一気に使う傾向が強いという解釈がわかりやすいと思います。

 

デジタルネイティブ世代への対応が注目される背景

ーーそもそもなぜ、Z世代マーケティングやデジタルネイティブ世代への対応が注目されつつあるのでしょうか。

企業のDX対応とデジタルネイティブ世代への対応は、経営戦略・事業戦略のストーリー上相性の良いテーマである」と考えられているからです。

以前から若年層への注目自体はありましたが、本格的に企業側が事業を立ち上げたり、大きく予算を投下したりするケースは少なかったように思います。

 

しかし、数年前からバズワードとして定着したキーワード「DX(デジタルトランスフォーメーション)」のトレンドが密接に絡んだことで、昨今の企業の動きが変わりつつあります。

鶏と卵のような話ですが、デジタルネイティブ世代をターゲットとしたマーケティング推進や事業開発、サービス開発を行う場合、必然的にDX推進の道に合流します。

入口は違えど、大きく捉えれば「デジタルネイティブ世代への対応」も一つのDXの道だと言えます。

 

もしくは、企業のDX戦略を構想する中で、今までと異なる顧客体験の提供やマーケティングプロセスの変革が強いられるならば、その流れの中で顧客ポートフォリオとして弱かった若年層アプローチにも活用していこうと考えられるかもしれません。

こうした考えが大きな戦略を描く中でわかりやすい指針として打ち出しやすいという側面もあり、これまで以上に市場形成がされているのだと思います。

よって、デジタルネイティブ世代への対応は経営課題の一つとして語られることも増え、とりわけ重要性が増していると考えられるでしょう。